概要

乳児血管腫(いわゆる「いちご状血管腫」)は、生後数週間以内に出現し、生後半年ごろまで急速に増大することがある良性の血管腫です。従来は「自然に小さくなるため経過観察でよい」とされていましたが、特に膨らむタイプの血管腫では、皮膚が引き伸ばされた結果、退縮後も瘢痕(しわやたるみ)として残ることがあります。
また、どの血管腫が急速に増大するのかは事前に予測することが難しく、特に生後1〜3ヶ月齢にかけて急に大きくなるケースも少なくありません。そのため現在では、「とりあえず様子を見る」よりも、早い段階で専門医の診察を受け、必要に応じて治療を始めることが推奨されています。
アメリカ小児科学会のガイドラインでも、血管腫の最も活発な増大時期は生後1ヶ月〜3ヶ月とされ、可能であれば1ヶ月齢までに専門医へ紹介することが望ましいとされています。
下記の概念図は、乳児血管腫の経過と治療介入の重要性を示しています。従来は、乳児血管腫は増殖期を過ぎると自然に小さくなると考えられていました。しかし、一定以上大きくなると皮膚が伸びすぎ、瘢痕や萎縮が残ることが分かっています。そのため、早めの治療介入により、瘢痕を残さないようにすることが大切です。

乳児血管腫の経過概念図の画像
(日本皮膚科学会雑誌 133(2) 195-203, 2023より抜粋)

当院での治療

当院では、以下の治療を症状に応じて選択・組み合わせています。

プロプラノロール(ヘマンジオル)内服療法

血管腫の増殖を抑える内服薬で、特に盛り上がりが強いタイプに有効です。もともと不整脈・血圧の薬であるプロプラノール内服では低血糖や徐脈などの副作用が見られることがあるため、小児科と連携の上で治療開始の際には5泊6日程度の入院で治療導入を行なっています。


VbeamⅡ (色素レーザー)治療

赤みに反応するレーザーを用い、血管腫の進行を抑え、瘢痕を残しにくくします。
生後早期から施行可能です。
乳児血管腫の経過概念図の画像
VbeamII シネロン・キャンデラ社製

血管腫の形状や進行の速さ、部位によって治療の必要性や効果は異なります。当院では、プロプラノロール内服療法・VbeamⅡレーザー治療のいずれか、または両方を組み合わせて、症状に応じた最適な治療をご提案しております。
実際に、早期から適切な治療を導入できた症例では、半年〜1年ほどで治療を終了でき、瘢痕が残らない良好な経過をたどることが多いとされています。
一方で、ごく軽度で目立たず、増大の傾向が見られない血管腫に対しては、経過観察を選択することもあります。すべての症例に治療を行うわけではなく、専門的な視点から「治療が必要かどうか」を丁寧に見極めた上で、必要な介入を適切な時期に行うことを大切にしています。
病変の状態や将来の見通しをふまえたうえで、治療の選択肢をご説明し、ご家族と相談のうえで最適な方針を決定しています。
また、当院では近隣の小児科・産婦人科・皮膚科の先生方と連携し、血管腫が確認された時点で早めにご紹介いただくことをお願いしております。受診には、かかりつけ医からの紹介状が必要です。気になる症状がある場合は、お早めにご相談ください。